カテゴリ: 小説

あの日の私は、どこかいつもとは  違っていた。

気温は-2度、外は雪が降り積もり辺りは一面真っ白だ。
薄ピンクのコートを羽織り、水色の毛糸で編んだマフラーとニット帽に白の耳当てを合わせた格好で、手袋だけ忘れてしまった。
凍えた手をポケットに入れて、私はそそくさと駅の待合室に逃げ込んだ。待合室と一言で言っても、木で出来たガタガタの引き戸にアクリルの窓が貼られた、ただ囲ってあるだけの部屋で、唯一の暖は、真ん中にある丸いストーブだけだ。湿った木の椅子に腰掛け手を擦る。

小娘は、また遅刻だ。
一本電車を逃すと次は3時間後。はぁ、田舎はつらいよ。


ガラガラ
不気味に軋む音を立てながら、扉が開かれた。
「あら、珍しいわね」
全身紫色でコーディネートされた、ザ・おばさんって人が入ってきた。
私は、会釈をし再び暖を取った。
そのおばさんは、椅子に腰掛けるとふいに年齢を聞いてきた。
17歳です。と答えると、
「若いって良いね、元気だし」
今の内だけだよと言わんばかりの勢いで話してきた。
私とおばさんしかいないこの部屋で、無視をするわけにもいかない。

あなたくらいの年齢の時は、この街ももっと賑わって活気があったのよ。商店街は今のようなシャッター通りじゃなく、お肉屋さんや洋服屋さんが立ち並び、毎日の買い物が楽しかったよ。
あと、ちょっぴりバカな事もやったかもね。あの頃は、少しくらいハメを外しても怒鳴られるだけだし、何でも挑戦しようって気持ちが強かったね。今の子は、怒られただけですぐやる気無くすから、そんな甘えた世の中になってしまったら何も良いものは生まれないと思わない?
偉そうなこと言ってゴメンね。こんな話されるのも嫌いだよね。じゃあ、もう行くね。

手を振るおばさんに対して、私は軽く会釈で返した。
私には、痛いほど言葉の矢が身体中に突き刺さったように感じ取れた。他人の意見に左右されやすい私だが、聞かないより聞いた方が選択肢が増える。知らないより知っている方が有利だと考える。

挑戦もまた一つ。やらないよりやった方が良い。
バカして許されるのは、若者の特権だ。

一人で納得し、ふと時計を見るといつもの登校時間なのに電車が来ない。遅延している様子もない。急いで電光表示と時刻表を照らし合わせた。

今日は、日曜日。休みだった。
それは、来ないはずだ。
コートの下に着た学生服がとても恥ずかしい。

こんな話を当時の小娘にしたところ、慌てん坊だなぁ、と生意気なことを口にした。



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煎じた緑茶を飲んだ。苦い、美味しくない。
畳が敷き詰められたその場所は、茶室と呼ばれていた。座布団に正座し、静かでかしこまった雰囲気の中で、ただ、お茶をすすった。
なぜ私は、こんなところにいるのだろうか。それは、隣の小娘に連れ回されているからだ。

「苦っ!」
淹れてくださってのになんと失礼なやつだ。

私と小娘は、街コンと呼ばれる会合に参加していた。千利休コンという名前だそうだ。こんな馬鹿げた企画を考えた者は誰だ、うちの小娘は、こういうのに引っ掛かる女なのだ。危なっかしくて、側を離れられない。
当然だが、相手の男性なんていない。お茶を淹れてくださった方と私たちの3人だけだ。
なんとも奇妙な時間が過ぎていく。

「帰ろうよ」
痺れを切らした私は、そう小娘に言った。

「苦〰️い」
はあ、全く聞く耳を持っていない。
私は、鞄を手に持ち茶室を出た。それに気が付いた小娘もまた後に続く。

街コンへ参加したのは、もう何回目だろうか。私は、面白半分で参加しているだけだが、小娘は本気だ。

「ねぇ、お茶してから帰ろうよ」
なんて能天気なのか。木造建築の門をくぐり、私の後を追う小娘は小走りでその甲高い声を発した。
「お茶って、さっき飲んだじゃん」
私の正論には返事をせず、さっと手を取り引っ張った。
しぶしぶ歩いて喫茶店へ入った。私と小娘は共に、先程の苦味を消したいかのように、甘ったるいミルクティーを選んだ。
「甘っ!」
どれだけ単純なんだか…。


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